グラム染色をする方法

共同執筆者 wikiHow編集チーム | 28 出典

この記事には:スライドグラスの準備グラム染色を行う染色結果を検査する

グラム染色とは、体組織内の細菌を速やかに識別するために用いられる検査方法のことです。サンプル内の細菌はその細胞壁の化学的・形質的特徴の違いによって、グラム陽性とグラム陰性に区別されます。[1] 多くの医療現場で、グラム染色は細菌感染の診断の最初の段階として行われます。


グラム染色は、デンマークの科学者ハンズ・クリスチャン・グラム(1853-1938)によって、1882年に考案され、1884年に研究論文として発表されました。肺炎双球菌(肺炎連鎖球菌)と肺炎桿菌という似通った症状を引き起こす2種類の病原菌を識別するためにグラム教授によって考案されたこの染色法は、その後洗練を重ね、細菌の分類や細菌感染の診断に欠かせないテクニックとして今日に至っています。[2]

パート 1
スライドグラスの準備

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    まずは実験作業の準備をします。グローブを装着し、長い髪は後ろへ束ねて、これから検査する細菌サンプルを汚染しないようにしましょう。作業は無菌環境で行います。作業場には換気フードを取り付け、通気性を確保しましょう。作業の前に、必ずガスバーナー(ブンセンバーナー)と顕微鏡の状態をチェックしてください。
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    顕微鏡のスライドグラスを殺菌消毒します。スライドグラスが汚れている場合は、石鹸水を使って脂分や汚れを洗い流します。その後、エタノールやガラスクリーナーで消毒します。消毒作業はみなさんの実験室が定める方法に従って行いましょう。
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    スライドグラスにサンプルを付着させます(塗抹作業)。グラム染色は医療用検体の中の細菌を特定するために用いる他、シャーレの中で培養された細菌を観察するために用いることもできます。グラム染色を効果的に行うには、サンプルを薄い膜にして染料の上に塗り付けます。抽出して24時間以内のサンプルが良いでしょう。細菌は古くなると細胞壁が壊れやすくなり、グラム染色をする際にしっかりと染料を付着させることができなくなります。[3]
    • 体組織のサンプルを使う場合は、サンプルを1~2滴スライドグラスに落とします。そして、もう一枚の消毒されたスライドグラスの角を使ってサンプルを塗り広げ、薄い塗抹標本を作ります。次の作業に移る前に、標本を空気乾燥させます。
    • シャーレから細菌を移す場合は、まず白金耳(微生物を移植するための先がループ状になった針金)をブンセンバーナーで真っ赤になるまで炙って消毒します。しばらくそのままにして冷まします。つぎに、白金耳を使って殺菌された水を一滴スライドグラスに落とします。もう一度白金耳を消毒して冷まします。そして、白金耳を使って細菌のサンプルを少量水の上に落とし、優しくかき混ぜていきます。[4]
    • 培養液の中の細菌はボルテックスミキサーでかき混ぜた後、上記の白金耳を使ってスライドグラスに移植します。この場合、水を加える必要はありません。[5]
    • サンプルを綿棒に付着させて移植する場合は、綿棒を軽く回しながらスライドグラスに塗り付けていきます。[6]
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    準備した標本を加熱します。標本を加熱することでスライドグラスに固定し、染色の際に流れにくくします。ブンセンバーナーに火を点け、スライドグラスを2、3度炎の中に通します。あるいは、電動加熱気の上に置いて温めても良いでしょう。加熱しすぎないように注意してください。サンプルの組織が変形する危険があります。ブンセンバーナーを使う場合は、炎が背の高いオレンジ色ではなく、青色の小さい円錐型になるように調整しましょう。[7]
    • バーナーの代わりに、メチルアルコールを使って固定するという方法もあります。乾いた標本の上にメチルアルコールを1、2滴垂らし、余分な液体を取り除いた後、空気乾燥させます。この方法を使えば、細菌が感染した細胞(宿主細胞)を破壊する危険を最小限にすることができ、なおかつ顕微鏡で覗いた際に背景がよりきれいに映るという利点もあります。
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    スライドグラスを免疫染色トレイに置きます。染色トレイは底の浅い金属またはガラス、あるいはプラスチックの容器で、通常表面に細かい網やワイヤーが付いています。網の上にスライドグラスを配置しておけば、後で余分な染色液をトレイに落とすことができます。
    • 染色トレイがない場合は、スライドグラスを直接アイスキューブ用のトレイの上に置きましょう。[8]

パート 2
グラム染色を行う

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    クリスタルバイオレットを標本にかけて染色します。スポイトを使って、細菌のサンプルにクリスタルバイオレット(ゲンチャナ紫とも)を数滴落とします。そのまま30~60秒待ちます。クリスタルバイオレット(CV)は水溶液の中でCV+イオンと塩化(Cl-)イオンに分離します。これらのイオンは、グラム陽性細胞とグラム陰性細胞の両方の細胞壁と細胞膜を通り抜けます。CV+イオンは細胞内のマイナス電荷物質と反応し、細菌細胞を紫色に染めます。
    • 多くの実験室では、染料の沈殿を防ぐために、「ハッカー染色液」と呼ばれるクリスタルバイオレットにシュウ酸アンモニウムを加えた染色液を採用しています。[9]
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    クリスタルバイオレットを優しく洗い流します。スライドグラスを傾け、洗浄瓶を使って蒸留水または水道水を少しずつ表面にかけていきます。水が表面を流れ落ちるようにしましょう。上から垂直に注いではいけません。[10]グラム陽性の細胞から染料が流れ出ることもありますから、あまり強く洗いすぎないように注意しましょう。
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    標本にヨード液をかけて、洗い流します。スポイトを使って標本をヨード液で覆います。そのまま60秒ほど置いた後、上記の要領で慎重に洗い流します。[11] ヨード液はマイナス電荷性で、CV+と反応し、細胞膜の外側と内側にクリスタルバイオレットとヨードの化合物(CV-I錯体)を大量に形成します。この化合物によって、クリスタルバイオレットの紫の色素は染色時の状態のまま細胞内に閉じ込められます。
    • ヨード液には腐食性があります。吸い込んだり、飲込んだり、肌に直接触れないように注意してください。
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    脱色液を加え、速やかに洗い流します。脱色液は通常アセトンとエタノールを1:1の割合で混ぜて作ります。脱色はタイミングが重要になり、グラム染色において最も神経を使う作業といえます。スライドグラスを傾け、紫色が見えなくなるまで脱色液を注いでいきます。作業時間は10秒以内で、特に脱色液のアセトンの割合が多い場合はさらに短い時間で作業を終わらせる必要があります。紫色が見えなくなった時点で直ちに作業をやめましょう。脱色液をかけ過ぎると、グラム陰性細胞だけでなくグラム陽性細胞からもクリスタルバイオレットの色素が流出してしまいます。そうなるとまた最初から染色作業をやり直すことになります。脱色した後は、速やかに上記の要領で余分な脱色液を洗い流しましょう。
    • 純アセトン(95%+)を代わりに使うこともできます。[12] ただし、アセトンの含有量が多いほど脱色にかかる時間は短くなり、より正確なタイミングが必要になります。
    • タイミングが難しい場合は、脱色液を一滴ずつ加えてみましょう。[13]
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    標本に対比染色液(後染色液とも)を加えます。対比染色液はサフラニンまたはフクシンからできていて、脱色されたグラム陰性細胞を持つ細菌を赤色またはピンク色に染めることで、グラム陰性とグラム陽性の細菌を色分けすることができます。[14][15] そのまま、少なくとも45秒ほど置いた後、洗い流します。[16]
    • フクシンはヘモフィリス菌属レジオネラ菌属など多くのグラム陰性の細菌をさらに強く染色することができます。[17] 初心者が扱うには最適な染色液といえるでしょう。.
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    スライドグラスを乾燥させます。空気乾燥させるか、あるいは実験用の吸収紙を使って乾かしましょう。[18] 以上でグラム染色は完了です。

パート 3
染色結果を検査する

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    光学顕微鏡を用意します。スライドグラスを光学顕微鏡にセットします。細菌はそれぞれサイズが大きく異なりますから、顕微鏡の倍率は400x~1000xまで幅広く調整することになります。[19] 1000xまで倍率を上げる際には、高い透明度を確保するために「油浸対物レンズ」の使用をおすすめします(※対物レンズと標本の間に水や油などの液体を注入することで屈折率をさらに上げます)。「液浸油」を一滴スライドグラスに落とします。この際、大きな動作によって油が泡立たないように注意してください。[20] 顕微鏡の調節ネジを回しながら、対物レンズが油に触れる位置に来るように調整します。
    • 液浸油は特殊なレンズにのみ使うことができます。通常のドライレンズに使うことはできません。
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    グラム陽性とグラム陰性の細菌を判別しましょう。光学顕微鏡下でスライドグラスを観察します。グラム陽性の細菌は、クリスタルバイオレットが分厚い細胞壁の内側に閉じ込められているため、紫色をしています。一方、グラム陰性の細菌は、ピンク色または赤色をしているはずです。これは脱色作業の際にクリスタルバイオレットがその薄い細胞壁からすべて流出し、代わってピンク色の対比染色液が入り込んだためです。
    • サンプルが分厚すぎる場合は、誤った陽性結果を示すことがあります。もしすべての細菌がグラム陽性反応を示している場合は、新しいサンプルを使ってもう一度染色をやり直し、染色結果が正確かどうか確かめてください。
    • 脱色液を注ぎ過ぎた場合は、誤った陰性結果を示すことがあります。新しいサンプルを染色し、実験結果を再確認しましょう。
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    参考画像をチェックしましょう。細菌の種類が分からない時は、形状別に、あるいはグラム染色によって分類された画像の一覧を参照してください。オンラインサイトでデータベースを閲覧することもできます(例えばNational Microbial Pathogen DatabaseBacteria in Photosなど)。特定をさらに容易にするために、以下の項目では、グラム染色や形状によって分類されたごく一般的な細菌、および医療上重要な病原菌についてご説明します。
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    グラム陽性の細菌を形状によって特定しましょう。細菌は、顕微鏡下で、その形状によって細かく分類されます。最も一般的な形状として、球菌(球体のもの)や桿菌(円柱状のもの)があります。いくつかの一般的なグラム陽性(紫色)の細菌は、その形状により以下のように分類されます:
    • グラム陽性球菌 :この多くはブドウ球菌または連鎖球菌です。
    • グラム陽性桿菌: バシラス、クロストリジウム、コリネバクテリウム(ジフテリア菌など)、そしてリステリアなどの菌属が含まれます。放線菌属もこれに含まれますが、 放線菌にはしばしば分枝や糸状繊維が見られます。[21]
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    グラム陰性の細菌を特定しましょう。グラム陰性(ピンク色)の細菌はしばしば3つのグループに分類されます。球状の球菌、円柱状の桿菌、そしてその中間にあたる球桿菌があります。
    • グラム陰性球菌 のほとんどはネイセリア属の細菌です。
    • グラム陰性桿菌には大腸菌、エンテロバクター、クレブシエラ、シトロバクター、セラチア、プロテウス、サルモネラ、赤痢菌、緑膿菌、その他多くの菌属が含まれます。コレラ菌(ビブリオコレラ)は通常の桿菌として、または「らせん状桿菌」として現れます。[22]
    • グラム陰性球桿菌にはボルデテラ、ブルセラ菌、ヘモフィルス、パスツレラなどの菌属があります。
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    不定性細菌を精査しましょう。時として、細胞質のもろさ、あるいは細胞壁の分厚い脂分によって、正確に染色できない細菌もあります。不定性細菌の場合、紫色とピンク色の染料が同じ細胞内に混在したり、また時として、同じ標本の別々の細胞内に混在することもあります。これは抽出してから24時間以上経た細菌によく見られる現象ですが、細菌の種類によってはグラム染色自体が難しいものもあります。不定性細菌の場合、抗酸染色、培養観察、TSI培地での培養、そして遺伝子検査といったさらに高度な検査が必要になるでしょう。[23]
    • 放線菌、アルスロバクター、コリネバクテリウム、マイコバクテリウム、そしてプロピオン酸菌などの菌属はすべてグラム陽性とみなされていますが、往々にして、染色の際にはどちらとも判別しがたい現れ方をします。[24]
    • トレポネーマ(梅毒トレポネーマなどを含みます)、クラミジア、リケッチアといった小さく細長い菌属は、適切にグラム染色を施すのがきわめて困難な病原菌です。[25]
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    材料を処分します。廃棄処分の方法は実験室によって異なり、また実験に使用された材料によっても変わります。総じて、染色トレイ内の液体は有害廃棄物として密閉したボトルに入れて処分します。スライドグラスは濃度10%の漂白液に浸けて、その後医療用のシャープスコンテナに捨てましょう。

ポイント

  • グラム染色の成功は標本の状態如何によって決まります。被験者には、状態の良いサンプルを提供してもらえるように、しっかり説明しましょう(例えば、痰のサンプルが必要な場合、唾を吐くのと深い咳をするのとでは、どちらが有効か明白でしょう)。
  • 脱色液としては、エタノールはアセトンよりも反応速度が遅くなります。
  • 綿棒で頬の内側からサンプルを取って練習してみましょう。サンプルにはグラム陽性とグラム陰性の両方の細菌が含まれているはずです。染色の結果、どちらか一方の特性しか現れなかった場合は、おそらく脱色液の量が不十分であったか、もしくは過剰であったことが考えられます。[26]
  • 洗浄や脱色をする際、バネの付いた木製の洗濯バサミを使ってスライドグラスを挟んでも良いでしょう。[27]

注意事項

  • アセトンやエタノールは可燃性です。アセトンはみなさんの手のひらの脂分を気化させ、他の化学薬品を吸収しやすくします。必ずグローブを装着して、慎重に扱いましょう。
  • 染色液や対比染色液を洗い流す前に、標本を乾燥させないように注意してください。[28]

必要なもの

  • 体組織のサンプル
  • スライドグラス
  • スポイト
  • ガスバーナー、電動加熱器、またはメチルアルコール
  • クリスタルバイオレット
  • ヨード液
  • アルコールやアセトンなどの脱色液
  • サフラニン


出典

  1. Bergey, David H.; John G. Holt; Noel R. Krieg; Peter H.A. Sneath (1994). Bergey's Manual of Determinative Bacteriology (9th ed.). Lippincott Williams & Wilkins.
  2. Gram, HC (1884). "Über die isolierte Färbung der Schizomyceten in Schnitt- und Trockenpräparaten" (in German). Fortschritte der Medizin 2: 185–9.
  3. http://www.microbelibrary.org/library/gram-stain/2886-gram-stain-protocols
  4. http://amrita.vlab.co.in/?sub=3&brch=73&sim=208&cnt=2
  5. http://www.austincc.edu/microbugz/gram_stain.php
  6. http://amrita.vlab.co.in/?sub=3&brch=73&sim=208&cnt=2
  7. http://amrita.vlab.co.in/?sub=3&brch=73&sim=208&cnt=2
  8. http://www.buffalo.edu/content/dam/www/facilities/ehs/policies/lab-safety-policies/Gram%20Staining%20Waste%20Procedure.pdf
  9. http://www.microbelibrary.org/library/gram-stain/2886-gram-stain-protocols


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記事の情報

この記事は、経験豊富なwikiHowの編集者と調査員から成るチームによって執筆されています。調査員チームは内容の正確性と網羅性を確認しています。

カテゴリ: 学び・コミュニケーション

他言語版:

English: Gram Stain, Italiano: Eseguire una Colorazione di Gram, Português: Realizar uma Coloração de Gram, Español: hacer una tinción de Gram, Русский: провести окрашивание по Граму, Bahasa Indonesia: Melakukan Pewarnaan Metode Gram, العربية: استخدام صبغة غرام, Français: faire une coloration de Gram

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