この記事の共著者 : Ray Spragley, DVM. レイ・スプラグレイ獣医師は、ニューヨークの動物病院「Zen Dog Veterinary Care PLLC」を経営する開業医です。複数の研究所や個人病院で経験を重ね、専門は頭蓋十字靭帯裂傷および椎間円板疾病(IVDD)の手術外治療、骨関節炎の疼痛管理。オールバニー大学で生物学学位を、ロス獣医学大学にて獣医学博士号を取得。ケーナイン・リハブ・インスティテュートにて認定犬リハビリテーションセラピスト (CCRT) 、チー大学にて認定動物鍼師 (CVA)資格を取得。
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狂犬病は最も古い感染症の1つで、[1] コウモリ、コヨーテ、キツネ、アライグマ、スカンクなどの野生動物、さらには猫にまで影響を及ぼします。[2] この急性ウイルス性疾患は神経系に影響を与え、ほとんどの動物はもちろん、人間にも感染する可能性があります。狂犬病の予防接種を受けていない犬は、野生動物と接触したり、噛まれたりした場合に感染のリスクがあるかもしれません。日本国内では1957年を最後に狂犬病の発生はありませんが、海外ではアジアやアフリカ地域を中心に発生しているため、感染リスクの高い地域への渡航、長期滞在をする場合は、暴露前の予防接種が必要になります。
ステップ
狂犬病の兆候を認識する
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1狂犬病感染の初期症状に注意する 初期症状は2〜10日ほど続きます。この期間、犬は一般的な病気の症状で体調を崩しているように見えるでしょう。このような症状に気づいたら、犬に噛まれた跡や最近喧嘩をした形跡(かさぶた、引っ搔き傷、付着した唾液が乾燥して乱れた体毛)がないか探してみましょう。噛まれた跡や傷を見つけたら、すぐに獣医師に連れて行き診察してもらいましょう。初期段階に見られる一般的な症状は次の通りです。[3]
- 筋肉痛
- 落ち着きのなさ
- イライラ感
- 寒気
- 発熱
- 倦怠感、体調不良や不快感
- 光恐怖症(明るい光に過敏になる)
- 食欲不振(食べ物に対して無関心)
- 嘔吐
- 下痢
- 嚥下困難、または嚥下障害
- 咳
- 喉と顎の筋肉の麻痺を後に発症
専門家情報獣医、Royal College of Veterinary Surgeons(王立獣医師会)Pippa Elliott, MRCVS
獣医、Royal College of Veterinary Surgeons(王立獣医師会)専門家からのアドバイス 狂犬病の潜伏期間、つまり感染してから症状が現れるまでの期間は5日から12ヶ月で、平均すると3ヶ月未満とされています。犬に一般的な症状が見られる場合、噛まれたばかりの傷がないからと言って、狂犬病に感染していないとは限りません。
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2後期症状の軽度の狂犬病に注意する この軽症型は麻痺型として知られており、最も多く見られ、症状は3〜7日間続きます。犬の口の周りに泡がついていたり、麻痺を起こしたりするため、麻痺性狂犬病として知られています。また、犬は錯乱していたり、体調不良、無気力(疲労)に見えるでしょう。[5] 次にあげる麻痺型の症状が見られる場合は、すぐに犬を動物病院へ連れて行きましょう[6]
- 足や顔の筋肉などの体の部位が麻痺する(動けなくなる)。通常は後ろ足から始まり体全体へ進行していく。
- 下顎が垂れ下がり、だらけた表情になる。
- 吠える声が普段とは違う変な吠え方をする。
- 過剰な唾液分泌で口の周りに泡ができる。
- 嚥下困難。
- このタイプの狂犬病は、犬に凶暴性はなく、噛みつこうとすることもめったにないでしょう。
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3後期症状の狂躁型の症状に注意する 狂躁型の症状も3〜7日間続き、犬は攻撃的になったり興奮しやすくなったりします。[8] 犬は異常な行動をしたり口の周りに泡を出すこともあります。一般的に狂犬病と言えば、このような攻撃的な症状を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、犬では麻痺型よりも少ないと言われています。狂躁型は過度に攻撃的になるため、噛みつかれないように細心の注意を払って行動する必要があります。犬が狂躁型の狂犬病にかかっていると思われる場合は、動物保護センターや自治体などに支援を求めましょう。狂躁型の症状は次の通りです。[9]
- 大量の唾液分泌で犬の口周りに泡が出ているように見える。
- 恐水病(水に対する恐怖)。犬は水に近寄らず、水音や水への接触に不安を感じたりパニックを起こす。
- 攻撃的になる。今にも嚙みつきそうなようすで、どう猛に歯をむき出す。
- 落ち着きのなさや不快感。食べ物に無関心になる。
- イライラ感。ほんの少しの刺激でも攻撃したり噛みついてくる可能性がある。また、刺激や原因がなくても、このような行動をすることがある。
- 石やゴミ、または自分の足などを噛むなどの異常行動。犬が檻の中にいる時に目の前で手を振ると、その手を追い回してくる。噛みつこうとすることもある。
- 子犬が遊びながら異常に興奮して、撫でられている時に急に噛みつき、数時間後には凶暴になる。
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4噛まれた跡や傷口を探す 感染した動物が他の動物に噛みつくと、唾液を通じて狂犬病が広がります。その唾液が感染していない動物の血液や粘膜(口、目、鼻腔)に触れると、狂犬病に感染した動物から感染していない動物へ移ります。噛まれた跡や傷口を探し、犬が狂犬病の危険にさらされた可能性があるかどうかを判断することができます。
- 狂犬病ウイルスが体内に入ると、神経を通って中枢神経系(脊髄と脳)に到達します。[10] そこから唾液腺へと広がり、別の動物へ感染させる用意ができます。
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5早急に獣医師の診察を受ける 犬が噛まれたら、できるだけ早く動物病院へ連れて行きましょう。狂犬病ウイルスは犬の皮膚や体毛で最長2時間生き続けるため、犬に触る前は手袋、長袖シャツ、長ズボンを着用しましょう。獣医師からは、庭でスカンクの臭いがしたか、または犬がアライグマやコウモリなどと接触したかどうかなど、狂犬病ウイルスにさらされた可能性について質問があり、犬の診察も行われるでしょう。
- 飼い犬以外で狂犬病の兆候が見られる犬を見つけた場合は、動物保護センターなどに連絡をしましょう。 こうすれば、噛まれる危険を冒すことなく犬を動物病院へ連れて行くことができます。
- 生きている動物が狂犬病に感染しているかどうかを判断する検査はありません。唯一の方法は、脳を摘出し、ネグリ小体と呼ばれる特異的な兆候があるかどうか、脳の小断面を顕微鏡で調べることです。[9]
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6犬のために医学的にできることを知る 犬がすでに狂犬病の予防接種を受けている場合は、追加接種を受けさせましょう。こうすることで免疫システムがウイルスを撃退するのを助けます。米国の場合、接種後、通常は自宅で45日間しっかりと観察されます。この期間中、その犬は、家庭外の他の動物や人間との接触を避けなければいけません。[10] 米国では、予防接種を受けていない犬が狂犬病に感染している動物に噛まれた場合は、通常は安楽死が勧められます。
- 安楽死を行うことで人間への深刻な健康障害を防ぎ、犬が完全に狂犬病になるのを防ぐことができます。
- 米国では安楽死を行いたくない場合、検疫を受けてから動物病院で6ヶ月間経過観察されることになります。費用は飼い主が負担し、犬が発症しなければ、再度予防接種を受けた1か月後に解放されます。
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7狂犬病に似た病気を知っておく 噛まれた跡がなくても犬の症状が心配な場合は、狂犬病の症状と似た病気があることに注意しましょう。具合が悪そうだったり、普段とは違う症状が見られる場合は、すぐに犬を動物病院へ連れて行きましょう。狂犬病と間違われる可能性のある病気や健康状態は次の通りです。[14]
- 犬伝染性肝炎
- 髄膜炎
- 破傷風
- トキソプラズマ症
- 脳腫瘍
- 出産したばかりのメス犬の母性攻撃行動
- ジミナゼンや有機リン酸塩などの化学薬品中毒
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狂犬病の感染を予防する
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1狂犬病の予防接種を受けさせる 予防接種は愛犬が狂犬病にかかるのを防ぐための最も効果的かつ安価な方法です。予防接種の有効期間が過ぎないように、獣医師と定期的な予防接種のスケジュールを決めておきましょう。日本では全ての飼い犬に年1回の狂犬病予防接種が義務付けられています。詳しくは、獣医師や厚生労働省などに問い合わせましょう。[15]
- 多くの国で法律により犬に狂犬病の予防接種をすることが義務付けられています。
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2野生動物や野良の動物との接触を避ける 狂犬病の危険のある地域では、予防接種以外に愛犬を安全に守る最善の方法は、野生動物との接触を避けることです。庭にフェンスを設置し、野生動物が活動する可能性の高い時間帯(早朝、夕方、夜間など)は愛犬を外に出さないようにし、散歩に出かける時はリードやハーネスをつけておきましょう。[13]
- 野生動物が多く見られる場所へハイキングや散歩へ連れて行く場合は、特に注意しましょう。
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3自分自身の暴露前の予防接種を受ける 感染の危険がある地域に渡航したり、リスクの高い職業についている場合は、狂犬病から身を守るために予防接種を受ける必要があります。アメリカ疾病予防管理センターでは、狂犬病が蔓延している地域に1ヶ月以上滞在する、またはこのような地域で動物を扱う仕事をする渡航者に暴露前の予防接種を受けるよう推奨しています。日本では、基本的に3回の接種が必要になるため、渡航前にはできるだけ早く余裕を持って受けるようにしましょう。[14] リスクの高い職業は次の通りです。
- 獣医師
- 動物看護師
- 狂犬病研究所の職員
- 野生動物保護区、リハビリセンター、国立公園などで野生動物と関わる仕事をする人
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4狂犬病の可能性のある動物による傷を治療する 感染のリスクが高い地域で、狂犬病にかかっていると思われる動物に噛まれた場合は、傷口を石鹸と水で10分間洗い流します。その後、主治医に連絡をしましょう。主治医が適切な機関に連絡を取り、調査が行われます。また、噛みついた動物を捕獲して狂犬病にかかっているかどうかの検査も行われるでしょう。
- 噛みついた動物が見つからない、または見つかっても検査結果が陽性の場合、過去に狂犬病の予防接種を受けているか、受けていないかで異なりますが、暴露後の予防接種治療を受けることになります。
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ポイント
- 狂犬病が発生したことがある地域では、犬を監視し、リードをつけておきましょう。
- ゴミ箱には蓋をして固定するなどして、野生動物が寄り付かない庭を作りましょう。家の床下など、スカンクやアライグマが隠れる場所がないよう確認し、うろついている野生動物が入って来られないようにフェンスを設置することを検討しましょう。
- 家の中でコウモリを見つけ、愛犬が同じ部屋にいる場合は、コウモリと接触しないよう慎重に捕獲しましょう。狂犬病の検査のため野生動物保護センターなどに持って行きましょう(日本ではコウモリは鳥獣保護法により駆除目的の捕獲は禁止されています)。
注意事項
- 噛まれた傷は石鹸と水でよく洗い流し、動物が狂犬病にかかっていないと思っても医師に連絡をしましょう。噛まれた傷はすぐに処置をしないと、細菌に感染して重症化する可能性があります。
- 野良犬や野良猫が病気のように見える場合は近づいてはいけません。野生動物の赤ちゃんも狂犬病を持っている可能性があるため注意が必要です。野生動物保護センターや自治体に連絡をし、訓練を受けている専門家に器具を使って捕獲してもらいましょう。
出典
- ↑ http://www2c.cdc.gov/podcasts/media/pdf/EID_2-14-LowHighPathogens.pdf
- ↑ http://www.cdc.gov/rabies/exposure/animals/
- ↑ The Merck Veterinary Manual 9th Edition (2005)
- ↑ Dürr, S., Mindekem, R., Diguimbye, C., Niezgoda, M., Kuzmin, I., Rupprecht, C. E., & Zinsstag, J. (2008). Rabies diagnosis for developing countries. PLoS neglected tropical diseases, 2(3), e206.
- ↑ Gadre, G., Satishchandra, P., Mahadevan, A., Suja, M. S., Madhusudana, S. N., Sundaram, C., & Shankar, S. K. (2010). Rabies viral encephalitis: clinical determinants in diagnosis with special reference to paralytic form. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry, 81(7), 812-820.
- ↑ Dürr, S., Mindekem, R., Diguimbye, C., Niezgoda, M., Kuzmin, I., Rupprecht, C. E., & Zinsstag, J. (2008). Rabies diagnosis for developing countries. PLoS neglected tropical diseases, 2(3), e206.
- ↑ Tepsumethanon, V., Wilde, H., & Meslin, F. X. (2005). Six criteria for rabies diagnosis in living dogs. J Med Assoc Thai, 88(3), 419-22.
- ↑ Kayali, U., Mindekem, R., Yemadji, N., Oussiguere, A., Naı̈ssengar, S., Ndoutamia, A. G., & Zinsstag, J. (2003). Incidence of canine rabies in N’Djamena, Chad. Preventive veterinary medicine, 61(3), 227-233.
- ↑ http://www.vetmed.wsu.edu/ClientED/rabies.aspx
- ↑ https://www.aspca.org/pet-care/dog-care/rabies
- ↑ Dürr, S., Mindekem, R., Diguimbye, C., Niezgoda, M., Kuzmin, I., Rupprecht, C. E., & Zinsstag, J. (2008). Rabies diagnosis for developing countries. PLoS neglected tropical diseases, 2(3), e206.
- ↑ Rupprecht, C. E., & Gibbons, R. V. (2004). Prophylaxis against rabies. New England Journal of Medicine, 351(25), 2626-2635.
- ↑ http://www.cdc.gov/rabies/pets/index.html
- ↑ http://www.cdc.gov/rabies/specific_groups/travelers/pre-exposure_vaccinations.html